「東京電力福島第一原子力発電所ALPS処理汚染水の海洋放出に関しての意見書」を日本政府および東京電力に提出しました

2023/6/23

6月のコープ自然派連合理事会にて「福島第一原子力発電所ALPS処理汚染水の海洋放出に反対するとともに、海洋放出時期の撤回と関係者への理解醸成を促す努力を求める意見書」を内閣総理大臣・経済産業大臣・水産庁長官・東京電力HD株式会社 代表執行役社長宛てに提出することが採決されました。

今年1月、日本政府は東京電力福島第一原発ALPS処理汚染水の海洋放出について、本年「春から夏頃」とする時期の見込みを示しました。政府の方針を受け、東京電力はALPS処理汚染水を大量の海水で薄めて、原発から海底トンネルを通じて沖合約1キロ、水深約12メートルに造る放出口から流す計画をすすめています。

これに対して、全漁連の坂本会長は「ALPS処理水の海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」と反対の姿勢を示しています。また福島県漁連の野崎会長は「反対の立つ位置は変わらない」と言います。そして、政府と県漁連が交わした「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」との約束について「履行されていないと思っている」との認識を示しています。まだまだ関係者とのALPS処理汚染水の海洋放出の理解醸成はすすんでいないと考えます。

日本政府および東京電力に対して、「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」との約束を守り、理解を得るために、まず海洋放出ありきの「春から夏頃」とする時期の撤回を求めます。また海は広く、境界もありません。汚染水の海洋放出は、日本および近隣諸国の人々を含め、みんなの問題と考えます。少なくとも近隣諸国(韓国、中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドなど太平洋諸島国15ヵ国・2地域)の多くの人々が懸念を示し、ALPS処理汚染水の海洋放出について、反対もしくは延期を求める国もあります。広範な関係者とのリスクコミュニケーションを通して、ALPS処理汚染水の海洋放出の理解を促す努力を重ねてほしいと考えます。その趣旨に基づき、以下の事項に関して、要望します。

1.ALPS処理汚染水の定義と内容および今後の処理計画について

東京電力がALPS処理しても放射性物質が残る、という発表を行ったのは、海洋放出が決定された2021年4月13日です。ALPSは、既設ALPS、増設ALPS、高性能ALPSの3種あるようですが、使用前検査に合格しているのは増設ALPSのみで、あとは使用前検査には合格しておらず「HOT試験」という放射性物質を用いた試験運転中という運用をしている、と聞きます。このようなALPS処理の実態で、放射性物質は本当に除去できるか、甚だ疑問です。

2022年12月31日現在、タンクに貯まる汚染水のうち、ALPS処理水は34%、途上処理水は66%と東電は発表しています。途上処理水はトリチウム以外のセシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が、総量として基準を上回って残留しているということです。ということはALPS処理水には基準値以下のトリチウム以外の放射性物質を含んでいるということになります。まずALPS処理水の定義を明らかにしてください。またトリチウム以外のどのような放射性物質を含み、どれくらいの量が残っているか、その内容について情報公開してください。

また途上処理水は、東電は「二次処理する」と言っていますが、その処理はいつ終わるか示されていません。今後の「二次処理する」という処理計画を情報公開してください。

2.ALPS処理汚染水に含まれるトリチウムとトリチウム以外の核種の毒性および食物連鎖による生体濃縮の毒性について

ALPS処理汚染水に含まれるのはトリチウムだけではありません。残留するトリチウム以外の核種について、その種類や排出量ははっきりしていません。日本政府および東京電力は海洋放出される際に希釈され、WHOのトリチウムの飲料水基準(1万㏃/ℓ)の7分の1以下(1500㏃/ℓ)となるので、安全と言います(但し、EUのトリチウムの飲料水基準(100㏃/ℓ)なので、その15倍となる)。しかし、この水を誰が飲むでしょうか?

トリチウムに限っても、その毒性について、科学的知見が様々あり、きちんと検討されていません。一般的には「トリチウムの放射線は微弱で無視できる」と言いますが、微弱とはいえ、「生命体の分子結合のエネルギーに比べれば1万倍近いパワー」と専門家は指摘します。体内に取り込まれ、「有機結合型トリチウム」という化合物になって、付着すればDNAを破壊する恐れがあります。また低線量被ばくの健康への影響をめぐる議論は決着していません。

また水俣病の患者団体などでつくる水俣病被害者・支援者連絡会は、水銀を含む工場排水の海や川への放水が水俣病の原因になったことを踏まえ、「自然や人体に未曾有の被害をもたらした水俣病の教訓を顧みず、同じ過ちを繰り返そうとする今回の決定に断固抗議し、反対する」と声明文を発表しています。

そこには「メチル水銀を含む工場排水を希釈して捨てても、生物濃縮で海や川へ流したメチル水銀が百万倍の濃度になって人体に及ぼした事実を、私たちは水俣病を経験してきた。人体への影響が明確になっていない段階での放射能汚染水の海洋放出は許されない」とあります。希釈してもトリチウムの総量は減るわけではありません。水俣病で、食物連鎖による生体濃縮でメチル水銀が人体に影響を及ぼした事実を私たちは忘れてはなりません。

ALPS処理汚染水を海洋放出することによる環境影響評価、すなわちトリチウムとトリチウム以外の核種の毒性および食物連鎖による生体濃縮の毒性に関する見解を求めます。

3.海洋放出以外の代替方法の検討について

福島第一原発事故から12年経過した今なお汚染水は1日当たり約90㌧発生しているようです。汚染水は原子炉の冷却水や地下水などが、溶け落ちた1~3号機の核燃料(燃料デブリ)に触れて発生し、それは今年4月13日現在で、タンク容量(137万㌧)の97%(133万㌧)に達しています。タンクの残りは4万㌧足らずです。

しかし、本当にタンクの置き場所がないのか、福島第一原発の敷地計画は出されていません。また海洋放出以外の代替案として、技術者や研究者のグループから「大型タンクによる長期安定保管」や「モルタル固化処分」といった提案がなされています。また近畿大学は、放射性物質を含んだ汚染水からトリチウムを分離・回収する方法および装置を開発した、と発表しています。さらに今年6月には、太平洋諸国フォーラム(PIF)の専門家から「コンクリート固化」の提案もあります。これらについての検討を強く求めます。

4.日本国内および海外の核関連施設の実態調査について

世界中の核施設の周辺で、健康被害の報告が後を絶ちません。マスコミは、日本国内や海外の他の原発でもトリチウムを含んだ大量の水を、海や川に放流していると政府の決定をあと押しするように報道しています。

しかし、それは原発事故が発生していない施設で、福島第一原発の条件と全く異なります。福島第一原発事故前は年間1.5~2兆ベクレルだったものが、ALPS処理汚染水は年間22兆ベクレルも放射性物質を海洋放出するとのことです。そしてこれがいつまで続くか、わかっていません。

また健康被害についての検証もせずに、「日本国内や海外の他の原発が行っているから安全」というのは科学的判断ではありません。この機会に、日本国内および海外の核施設周辺の実態調査を行うべきだと考えます。

2016年、水産庁は幣会に対して、風評被害防止を理由に、商品案内の記述訂正を求めてきました。しかし、当時の汚染水の管理は十分なものではなく、汚染水が海洋流出していた実態および可能性がありました。また商品案内の記述をめぐるやりとりの中では、水産庁から汚染水問題の本質についての十分な説明がなされていないと感じています。

今回の汚染水の海洋放出においても、漁業者だけでなく、多くの日本および近隣諸国の人々の強い反対の声を無視した判断であり、風評被害ではなく、海洋汚染を招くという事実をないがしろにしています。

私たちは、次世代に引き継ぐ環境を守り、海の恵みを安心していただくことのできる未来を望みます。現世代を生きる一人の人間として、処理汚染水を海洋放出することに断固反対します。放射性物質は集中管理をすることが原則です。これ以上、拡散させてはなりません。


意見書の全文は以下よりご確認ください。

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