おいしいにんじんをつくろうとしたら種採りに行きついた!
佐藤さん夫妻は、単なる有機栽培にとどまらず、自ら生産した作物から種子を採取する「種採り」(自家採種)にこだわっています。
種採りを続けて気が付けば20年以上。
にんじん畑から見上げる標高1200メートルの山頂が雪で白くなり始める12月、「にんじんの種を採らなければ」と気持ちがあせりだします。
12月 いのちをつなぐ
収穫したにんじんのうち、種を採るにんじんを選ぶ作業「母本選抜」を行います。
色・形・生命力を基準に、自分の想いも込めて約100本を選抜し、ハウスの中に植えかえます。
種採り用を選び、再び植えなおすまで
4月 にんじんの春
久しぶりに種採りにんじんたちを訪れます。植え付けたにんじんの新芽が伸び始めます。
にんじんにとっては「とう立ち」という現象、次のいのち(種)へのスタートです。
敷草の間から緑の新芽がやわらかく顔を出します。元気なにんじんに会ってほっとします。
5月 にんじんの花
ハウス内のにんじんはぐんぐん大きくなります。花芽がのび、次々と花を咲かせる季節です。
5月中は大小の花が咲くので、小さな花を切り落とすと同時に、倒れないように支柱を立てテープを張ります。
たくさんの虫たちが自然交配を手伝ってくれ、とてもにぎやかになります。
7月 にんじんの種
6月から7月にかけ、真っ白だった花が次第に緑になり、種の姿が見え始めます。
種は熟れてどんどんきつね色へと変化していきます。
にんじんの花が色づき熟れるまで
7月下旬 種をあやす
種をあやす、つまり脱粒作業を行います。
「あやす」という言葉は種を、赤子をあやすような感覚で大切に種採り作業をしていたのか、と想いを馳せます。
この作業は非常に大変で、真夏の暑い中、麦わら帽子をかぶり汗だくで行います。
よく乾かさないとにんじんの種は落ちないからです。
よく熟れた種を切り取り、2日ほど天日干しで乾燥させます。
指先でこするとバラバラっと種が落ちます。大きなごみはザルにいれて風であおって飛ばし、脱芒機にかけ、もう一度ザルであおります。
手でもごみを拾ってやっと出来上がりです。
あとは冷蔵庫で3日ほど休眠させる処理を施せば種まきができるようになります。
この自家採取の種は発芽も良く、乾燥材を入れて保管すれば3~4年は大丈夫です。
8月上旬 種をまく
佐藤さんのにんじんの種まきに適した期間は7月下旬から8月の上旬までです。
最近この時期はスコールのような雨も多く、蒔いた種が流されてしまうこともあります。
そうなれば全てまき直しです。そのため、保管用の種も多めに採るようにしています。
8月は小型の管理機で中耕、9月からは除草と間引きが重要な作業です。
世代を超えて受け継がれる種採りにんじん
~佐藤勝六さんからのメッセージ(2017年36号ポスティ掲載)~
種採りにんじんの栽培を始めたのは、岩崎政利さんという数十種類の野菜の種採りを行っている方と出会ったことがきっかけです。そこで食べた種採りにんじんの美味しさと形の良さに驚き、自分たちでも作りたいと思いました。
それから種を採り続けて20年以上が過ぎました。種採りしたにんじんは思った通りの形になってくれないこともありますが、このような変化や発見が種採りにんじんの楽しいところでもあると思っています。
また、種採りは続けていくうちに種自身が、その土地の環境に合わせた形や性質に変化し、病気や寒さに強くなります。
種採りはとても手間がかかり、長年の経験・熟練の技が必要です。止めてしまえばそこで終わってしまいます。命(種)をつないでいるということの重みを大切にしながら、次世代にも伝えていきたいと考えています。